1. 生体膜動態を再構成し、分子のレベルで理解する |
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酵母からヒトを含む高等動物に至るまで、真核生物の全ての細胞において、個々のオルガネラを含む細胞内膜系の動態は、時空間的に厳密に制御されている。しかしながら、従来の「生きた細胞」あるいは「単離オルガネラ」を用いた研究手法だけでは、脂質膜と膜タンパク質も含む超分子複合体からなる、生体膜動態を制御する分子マシナリーを理解する事は不可能である。そこで、本研究室では、人工脂質二重膜であるリポソームと、膜タンパク質複合体を含む精製タンパク質群を材料に、様々な生体膜動態の無細胞完全再構成系を構築し、その動作原理解明を目指す。現在はまず、SNARE、SNAREシャペロン、Rab GTPアーゼが関わる生体膜融合過程に焦点を当てている(図1)。
2. 無細胞完全再構成系を用いて「生体膜融合」超分子マシナリーを解明する |
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生体膜融合は、メンブレントラフィッキング、オルガネラ動態、シナプス伝達、ホルモン分泌、細胞生育をはじめ数多くの重要な生命現象に必須の過程である。そして現在まで、SNARE、SNAREシャペロン、Rab GTPアーゼ、Rabエフェクター、テザリング複合体、SMタンパク質など数多くの分子が融合因子として同定されている。また、これらの膜融合因子群は、酵母からヒトに至るまで、全ての真核生物で、さらにはそれらの全ての細胞内輸送経路で保存されている。しかしながら、従来の遺伝学・細胞生物学的手法、単離オルガネラによる生化学的手法では、単純な因子同定のレベルを越え、超分子複合体による複雑な分子機構を理解するのは非常に困難であった。
そこで我々は、その現状を打破すべく、in vitro再構成系を手法の中心に据え、1)SNAREを含めた膜融合因子タンパク質の精製、2)プロテオリポソーム調製、3)膜融合アッセイ、など様々な新しい実験系の
確立を経て、精製因子のみ(膜タンパク質複合体群と人工脂質二重膜リポソーム)による生体膜融合のin vitro完全再構成系の構築に成功した(図2および3)。この新しい再構成系を用いて、従来の「SNAREタンパク質が膜融合に必須かつ十分である」という定説を覆し、SNAREと共に、2種類のSNAREシャペロン、テザリング複合体、ホスフォイノシチドなどの特定脂質から構成される超分子マシナリーが、膜融合過程で必須であることを初めて証明した(Mima, J., Hickey, C.M., Xu, H., Jun, Y. and Wickner, W: Reconstituted membrane fusion requires regulatory lipids, SNAREs, and synergistic SNARE-chaperones. EMBO J. (2008) 27, 2031-2042)。
今後の研究においても、この超タンパク質複合体/リポソームから成る完全in vitro再構成系を中心に、生化学・生体高分子化学的手法を縦横無尽に使い、他の遺伝学・細胞生物学研究を主とする他研究室には出来ない独創的な研究を目指す。研究テーマにおいては、将来的に「生体膜融合」だけでなく、オートファジーを含めた様々なオルガネラ形態変化、膜透過、細胞融合など他の「生体膜と膜タンパク質複合体のオーケストレーション」に広く展開していく。
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